ただでさえ忙しい年度末、コロナウイルスの影響も加わって仕事が忙しく、なかなか更新ができませんでした。
抻面鸡架yuzuさんの、伊藤聡美さんの作品集発売に関する2月28日の投稿を訳しました。
ここ数年羽生結弦の衣装製作で名声甚だしいデザイナー、伊藤聡美さんがデザインした衣装の写真集《FIGURE SKATING ART COSTUMES》が近々出版されます。
そう、写真集の表紙は彼女のここ数年の作品のうち最も有名な、羽生結弦選手の《ノッテステラータ》のためにデザインされた、白鳥の衣装のディテールの写真です。
うーん、もう一万回ぐらいこの「白鳥」の美しさへの感動を語っていますが、こんなにクリアで詳細な写真を見ると、改めて自分の語彙の貧困さを切実に実感します。
大小のラインストーン、パール、羽毛が描き出す優美な姿を見て心に浮かぶのは、静かな湖のほとりで首を伸ばして歌う白鳥の姿!
この「白鳥」のみならず、羽生結弦選手のどの衣装も細部を眺めると、そのどれもが芸術品であると感じずにいられません。
白鳥と対照的なのは、黒と金の《origin》、「羽根から生まれた人外のもの」。
伊藤聡美さんのイメージでは、黒と金のオリジンは白鳥と対照的な関係にある暗黒の存在。純粋で優雅な白鳥に対して、暗い夜の黒い羽根と、流れる金色と紫色のラインからは、黒鳥のような神秘性を感じます。
一方は黒、一方は白の「神」と「天使」の対比以外にも、伊藤さんの本には彼女がデザインして制作した沢山の衣装が収録されていますよ〜
「仙人の羽衣」のような《春よ、来い》の「桜衣装」〜
伊藤さんと羽生結弦の初期の提携作品、2014年の中国杯の事故の後に急遽新しく制作された《オペラ座の怪人》の衣装の腰部分のディテール。華麗なギャザー、シンプルな色彩、腰回りの精巧な装飾が、オペラ座の怪人のあの美しくも哀しいテーマを完璧に表現しています。
ファンたちに《オペラ座の怪人2.0》と呼ばれている、2019年の夏のショーで演じられた《マスカレイド》の衣装は、異なる色のぶつかり合いとコントラストで、非凡な人物の内心と運命の衝突を表現しています。手袋にも色の対比を使うという細やかさ。
しかし個人的な思いを言うと、《マスカレイド》の衣装なら私はやはり最初の、半分がシルクで半分がレザーのあのバージョンが好きです。残念ながら彼が言うには、このバージョンは暑くて重くて、氷上で激しく動くには適していなかったようです。
優美さや緻密さ以外についても伊藤聡美さんは語っています。彼女が作るのは「スケートに彩りを添える衣装」だと。美しさに加えて、選手たちが試合に集中できるようにするためには衣装の生地の選択も非常に重要なのです。
例えば羽生結弦選手の《天と地のレクイエム》の衣装のために選ばれたのは、イギリスから取り寄せた伸縮性に優れた特別な生地でした。
ファンたちはふざけて「白菜」と呼んだりしますが、この《天と地のレクイエム》の白菜は、「翡玉白菜」です。(訳者注:故宮博物院にある彫刻で、同館を代表する作品の一つだそうです。)この細やかな美しさと複雑さは、ええ、芸術品でしか形容ができません。
しかしあくまで衣装は演技を引き立てるためのもの。伊藤聡美さんの言葉を借りると、羽生結弦は自分の衣装やプログラムの演技を自分の美的感覚と価値観で決めます。それらは彼のフィギュアスケートに対する姿勢と共に、ずっと一貫しています。
和風へのこだわり、細部へのこだわり。
ギャザーやフリル、ラインストーンへの深い愛。
これらは全て彼の、更に優美で更に正確で更に美しいフィギュアスケートを追及する思いに繋がっています。
最近ではフィギュアスケートは多くの人にとって簡略化された「フィギュアジャンプ」になっていて、それに伴って運動着のような極めてシンプルな衣装がだんだんと一つのトレンドになりつつあります。しかしこの「トレンド」は羽生結弦選手のような人が、更に複雑で更に高度で更に純粋な美を追求することに、何の影響もありませんし、何の妨げにもなりません。
美の本質はつまり「美」。これ以上言葉を加えたり、判定したり何かと関連付けたりすることは、美への冒涜になりますね。