kuppykuppy’s diary

中国語で書かれた羽生結弦選手関連の文章を色々と翻訳しています。速報性皆無のマイペース素人翻訳ですが、よろしければお読み頂ければ嬉しいです。 Twitter:@kuppykuppy2020

(過去分)天才デザイナー伊藤聡美 ー羽衣は氷上に連れ出す。美少年羽生結弦を。

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雑誌に掲載されたらしい衣装製作の伊藤さんのインタビュー。今年の7月ぐらいに上がっていた写真を見て訳したものです。作文の題材として紹介されているようです。

 

あなたは羽生結弦が毎回奇跡のように苦境から復活する姿に驚嘆していることだろうが、彼を背後で支えているこの人に注目したことはないかも知れない。
伊藤聡美、スケートの勝負の世界が向こう岸にあるとすれば、彼女は渡し舟の船頭。
渡る者に精緻で美しい船を贈り、不思議に満ちた向こう岸に送り届ける。
自身は微笑みつつ道中の芳しい樹木や、ひらひらと舞い落ちる花びらを眺めながら。
精密な絹糸の縫製、緻密な氷紋の装飾。
完璧な演技をする踊り手に伊藤聡美が着せるのは、完全無欠な戦闘用の鎧だ。
デザインする衣装の一着一着は世間の人の手厳しい批評に晒されるが、冷静にクールに受け止める。

星の光が輝きを放つ、その衣装に込められた物語は華やかで美しい舞と一体になり、息を飲むような美しい演目を私たちに見せてくれるのだ。

 

伊藤聡美、スケート界では有名な天才デザイナーです。
2019年の世界選手権男子シングルのエキシビション羽生結弦が「天女の羽衣」を纏い、氷口づけした美しい場面は多くの人の心を震わせました。
この氷上の王子が纏う夢のように幻想的な衣装は伊藤聡美の手で創られたものです。

伊藤聡美と羽生結弦のコラボレーションは次々に氷の上に奇跡を創り出しています。

 

私は昔から人と違ったことをすることに面白みを感じていました。26歳ぐらいでフリーのデザイナーになり、27歳ぐらいで食べて行けるようになりました。こう話せば簡単に聞こえるかも知れませんが、独立当初は資金面で本当に苦労しました。始めはもっぱら子供スケーターの衣装を作り、作品が子供たちのコーチに認められるようになって、やっとトップ選手のコーチにも紹介してもらえるようになりました。

 

シーズン前(8月から翌年3月)、1ヶ月に同時に8~10人の衣装を作り始めます。2~3ヶ月かかってやっと1着が完成します。装飾部分も全て手作りです。忙しくなると徹夜が続き、寝られる日があったとしても2、3時間だけという状態になります。


2014年、羽生結弦選手から私に突然連絡があり、跳び上るほどびっくりしました。彼に作った1着目は「タイムトラベラー」の衣装です。羽生選手は2014年のグランプリファイナルで日本男子シングル選手として初の連覇を成し遂げました。奇跡の少年が優勝を掴み取った後、エキシビションで着たのがこの衣装です。

 

その後は毎シーズン彼の衣装を作っています。2016年のグランプリファイナル4連覇の後に演じられた、感謝を込めたプログラム「ノッテステラータ」の衣装も私の作品です。これは彼に作った中で一番大胆なものです。彼からはただ曲だけを渡されました。この曲は今まで沢山のバレエの名作に編曲されていますので、私は即座にバレエ風の衣装にすることを決めました。男性の衣装でこんなに胸元や背中が開いたものはあまりないのですが、羽生選手の中性的な雰囲気には合うのではと思い、思い切って試して見たところ、本当によく似合いました。
2018年の平昌オリンピックのエキシビションでもこれを着て演技してもらえて、とても嬉しかったです。

 

以前、ロシアのラジオノワ選手の衣装も作ったことがあります。私はずっと彼女が好きで、何としてでも自分のデザイン画を一度見てもらいたいと思っていました。それで彼女が試合で日本に来た時に自分から声をかけてデザイン画を見てもらったところ、何と彼女はそれをとても気に入ってくれて、是非これを作ってほしい!と言ってくれたのです。


今振り返ると何て衝動的だったんだろうと思いますが、同時に自分の勇気を尊敬します。私のスケートへの愛情がデザインを通じて選手に伝わり、それが選手達に私の衣装を気に入ってもらえることにつながっているのかなと思っています。

 

スケートの衣装は見かけが華やかなだけではなく、見えない所に工夫が隠されています。試合の中で選手達は大きな動きをしますので、伸縮性のある軽い布地を選ぶことは必須です。男性の衣装は850グラム以内、女性の衣装は350グラム以内に抑えますので、貼り付けるストーンも出来る限り薄く細かくせねばなりません。


私の衣装には刺繍を広い範囲に入れることが多いです。ストーンだけでは出せない立体感や繊細な光沢を出すためです。そして、氷の上で独特な色彩のグラデーションを見せるため、エアブラシなどの道具も使います。普通の染色では出せない仕上がりになるのです。

 

私はしょっちゅう選手の試合を観に行っています。直接この目で見ることで、もう少し色を濃くしよう、装飾を増やそうなどと考えるのです。スカートのひらめく様子を見て、形状を少し改良すると言うようなこともあります。


こうやってずっと自分の好きなことをしながら生活できて本当に楽しいです。

 

この記事の元になったと思われる長いインタビューもネット上にあって、とても興味深い内容でした。きちんとまとめられたら、いつかご紹介したいと思っています。