kuppykuppy’s diary

中国語で書かれた羽生結弦選手関連の文章を色々と翻訳しています。速報性皆無のマイペース素人翻訳ですが、よろしければお読み頂ければ嬉しいです。 Twitter:@kuppykuppy2020

百度に掲載されたコラム「天と地に恥じることなく、月と日をいだく!羽生結弦のイナバウアーは何故こんなにも忘れ難いのか? 」

今回も中国のファンの方によるコラムのご紹介です。羽生さんのイナバウアーについての考察です。


最高傑作とは何でしょうか?それは何度も何度も見たくなるもの。それは繰り返し振り返るに値するもの。それはいつどこで見ても心が震えるような感動と美を感じさせるもの。羽生結弦の数々のプログラムは正に最高傑作。羽生結弦の数々の技が最高傑作と呼ばれシンボルと呼ばれる理由は正にそれなのです。

 

最近ちょっとした理由があって羽生結弦イナバウアーを振り返っています。そして気づきました。昨今は男女を問わずイナバウアーができる選手が少なくありませんが、やはり多くの人に愛されているのは羽生結弦イナバウアーです。

何故でしょう?それは彼の技が安定していて転んだりしない(こら、そんな基本的なことをわざわざ言う必要ないでしょ)だけではなく、いつも感情がこもっていて非常に正確な動きで音楽の中の最適なポイントを捉えて行われ、見る者の心の琴線に触れるからです。

 

天と地に恥じることなく、月と日をいだく。

 

これが羽生結弦イナバウアーの魅力。

 

イナバウアー、レイバックイナバウアー(Ina Bauer)はイーグルに似ていますが、違うのは片側の膝を曲げて腰を反らせる動きが伴うところです。ビールマンと同じく、イナバウアーに必要とされるのは選手の腰部の力と柔らかさですので、美しいイナバウアーができるのはほとんどが女子選手です。かつて日本のフィギュアスケート女王荒川静香イナバウアーは素晴らしい最高傑作となっていました。

そして羽生結弦イナバウアーを練習し始めたのも故郷の先輩への尊敬の念からでした。再スタートした仙台のリンクに荒川が帰ってきた時の放送で、現地の司会者が「ここにはビールマンイナバウアーができる男の子がいるんですよ」とキューを出しました。驚く荒川に向かって悠然と滑って来て、すぐさまイナバウアービールマンを披露したのが、小さな小さな羽生結弦でした。

 

「男子でこれは凄いですよ!」荒川は感慨深げに言いました。その後、この男の子がオリンピック二連覇のフィギュアスケートのGOATとなり、その上27歳になってもまだイナバウアービールマンができるだなんて誰が予想したでしょうか。

 

北京オリンピック前に新華ネットが微博で行った「あなたは羽生結弦の代表的な技のうち、どれが1番印象に残っていますか?」というアンケートで3位になったのがレイバックイナバウアー。ファンたちがこの技をどれだけ愛しているかがわかります。

 

そして2022年FaOIの楽公演。羽生結弦はアンコールの『ノートルダム・ド・パリ』で、ステージから飛び降りてリンクに駆け出しました。音楽の最高潮でリンクを貫いて見せた泣くような、訴えるような、歌うような、吟じるようなイナバウアーは、舞台からリンクへの流れを美しく繋げたのでした。

 

心が揺さぶられました。

 

初めて見た人は言うかもしれません。普通のイナバウアーでしょ?沢山のプログラムで演じられているし、どれも同じでしょ?と。しかし何度も見ているうちにわかるでしょう。同じイナバウアーでも羽生結弦はいつもプログラムの内容によって、音楽によって、全く違った見せ方をします。長さや手の動きだけではなく表情も。彼のイナバウアーは一つ一つ全て違うのです。

 

ホープ&レガシー』のイナバウアーは、優しく、力強く、全てを包み込む春の大河のよう…

 

『春よ、来い』のイナバウアーは、顔を上げた瞬間、瞳の中には桜の花が咲き誇り、指先には春風のような暖かさ…

 

櫻ちゃん春ちゃんイナバウアーを見た後で『Origin』のイナバウアーを見ると、その違いが実感できると思います。

腰を反らせる角度や浮かべた表情が全く異なるこのイナバウアーでは、悲痛な思いを秘めた強さが表現されています。

 

そして『ノッテステラータ』の白鳥のイナバウアー。腕の動きは伸びやかで、まるで湖畔の白鳥が翼を広げ、星の光の中で翼をはためかせて飛び立つかのようです。何とロマンティックで優雅なのでしょう。

 

羽生結弦イナバウアーはこんなにも長年に渡り、まだ続けていると言うだけでなく、ますます進化し続けています。黒オリジンの印象深いイナバウアーと言えば、2018年のグランプリシリーズロシア大会で披露されたものでしょう。彼は試合前の公開練習で怪我をしたと言うのに、難易度を落とすことなく素晴らしい闘いを見せてくれました。

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このイナバウアーは音楽がクライマックスを迎えた時に行われました。腰の角度は非常に深く、実施時間はとても長く、しかも羽生結弦は左手で顔を覆っていました。この瞬間のイナバウアーは決意のこもった所作で、ニジンスキーの壮絶で美しい人生を表し、羽生結弦の戦士としての勇敢さと確固とした意思を表現していました。

 

一番苦しい時でも尚、完璧な演技をみんなに見せてくれる。これには完璧なテクニックと腰部や腹部の体幹コントロール力の強さだけではなく、勇気と愛と気概が必要です。

 

では私たちは何故羽生結弦イナバウアーが好きなのでしょうか?それは、心からの愛と誠意から作り出される技には忘れ難い美しさがあるからです。