kuppykuppy’s diary

中国語で書かれた羽生結弦選手関連の文章を色々と翻訳しています。速報性皆無のマイペース素人翻訳ですが、よろしければお読み頂ければ嬉しいです。 Twitter:@kuppykuppy2020

「冬季オリンピック選手のイメージ形成と『Z世代』のスポーツコミュニケーションの研究:羽生結弦を例として」

随分とお久しぶりになってしまいました。

 

全日本の現地観戦からなかなか現実に戻れないまま年末年始を迎え、年が明けるとどんどん仕事が忙しくなってしまって今に至ります。

そんな中、久しぶりに長いのを訳してみました。

 

「対外伝播 International Communications」という月刊誌の12月号に掲載された論文のようです。

この雑誌は中国の対外コミュニケーション分野について論じる国家レベルの専門誌とのこと。

 

ここに書かれているように事前に計画してスーパースターを作り出すこと、中国の国力にかかれば本当にできてしまうのかもしれませんが、羽生選手は国家やメディアの戦略でスターとして育成された訳ではないですし、揚げられているエピソードに2箇所ほど事実と異なる点があります。また、最近書かれた論文のようなのに平昌オリンピックのことに全く触れられていません。2連覇をご存じない方が執筆されたのかな?

 

どうあれ、国家の戦略を語る際に引き合いに出される羽生選手凄すぎる!と言うことで訳してみました。

【概要】

冬季オリンピックの多くの種目は氷や雪に関連している。氷と雪の種目特有のスポーツ性と芸術鑑賞性は、冬季オリンピックに関するコミュニケーションを良好なものにし、新世代の観衆を育て、冬季オリンピックのイメージを形作る重要なツールとなる。日本の文化、日本の政府、日本の民衆が一体となって作り出した羽生結弦を代表とする新世代のフィギュアスケートの国際的スーパースターは、強い国際コミュニケーション力と影響力を発揮している。北京オリンピックという光が当たるチャンスを利用して中国の金メダリストをスポーツ界の国際的スーパースターに育て、良好なスポーツコミュニケーション効果を生み出すことには大きな意義がある。北京オリンピックのリアルな状況と新しいメディアが互いに結びつき、アスリートの国際化を積極的に推進することは全世界の「Z世代」のオンラインでの需要にマッチするだけでなく、国や言語や文化の壁を越えてスポーツを愛する、ファッショナブルで国際的な大国のイメージを形成することにもつながる。

 

【キーワード】

冬季オリンピック選手 イメージ形成 「Z世代」  スポーツコミュニケーション 羽生結弦

 

日本のアスリート羽生結弦は2014年のソチ冬季オリンピックフィギュアスケートの金メダリストであり、冬季オリンピックを通してこの数年で全世界で人気を博すようになったスポーツ界のスーパースターの一人だ。2021年、日本の「読売新聞」が発表した「日本人が最も好きなアスリート」では羽生結弦が2年連続の第1位であった。彼がツイッターで2022年冬季オリンピック開催への祝福を述べると、(←ここは事実ではありませんが…)中国外交部のスポークスパーソン華春瑩が日本語で返答するなど、彼のオピニオンリーダーとしての影響力は存分に発揮されている。北京冬季オリンピックの開催期間中、中国は全世界のメディアから注目されることになる。この機会に、優勝した中国のアスリートを国際的影響力のあるスポーツ界のスーパースターに育て、北京オリンピックを記憶に残るものとし、中国のスポーツと中国の国家の新しいイメージを示すための戦略としては、オリンピック選手のイメージを使ったスポーツコミュニケーション、とりわけ「Z世代」のスポーツコミュニケーションの推進が効果的だ。「Z世代」とは主に1995年以降に生まれたデジタルネイティブ世代を指し、目下の国際コミニケーションの重要な受け手の一つだ。

 

欧米や日本、韓国などの多くの国や地域と比べて中国にはグローバルな影響力を持つスポーツスターが少ない。また、中国のスポーツ界のスーパースターは海外滞在歴があったり海外メディアの力により影響力を拡大したりしている場合が多い。羽生結弦が衆目を集めるようになった道のりを研究し、日本社会の空気がその成長過程に与えた影響を分析することは、我が国のスポーツコミュニケーションにとって一定の価値がある筈だ。新しい時代に向かって急速に発展する中国にとって、オリンピックを開催したり、世界チャンピオンを育成したりすることは決して難しいことではない。しかし、適切な人物を選んで上手く世論を誘導し、文化産業の発展を促進させることや、「Z世代」に愛され、ポジティブな影響力を持つスポーツ界のスーパースターとして世界に売り込むことは容易ではない。良好なグローバルコミュニケーションと影響力の発揮のためには実践の中での更なる模索が必要だ。


一、「Z世代」の美的要求にマッチしたコミュニケーションターゲットを選び、持続的な影響力を創り出す

パーソナルイメージと競技レベルを見ると、羽生結弦は容姿が美しく、若くてエネルギッシュで、「Z世代」の観衆が日本の漫画の中の美形の主人公としてイメージする姿にぴったりだ。そして競技経歴を見ると、日本の熱血少年漫画の主人公のように奮闘する属性も兼ね備えている。2014年11月、グランプリシリーズ上海大会に怪我を押して出場したことが人気とキャラクターの確立のきっかけとなる。彼は包帯を巻いて国際試合のリンクに立ち、中国の観衆の人気を勝ち取った。

 

羽生結弦ソチオリンピックで優勝した後、日本のメディアによって彼に関する番組が大量に制作され、2011年の福島の地震が発生しても中断せずに練習を続ける彼の映像等も画面に映し出された。(←これも事実ではありませんが)大衆の審美眼に叶うオリンピック金メダリストであり、世界の観衆の前で日本国家の持つ奮闘精神を体現する羽生結弦は、日本のスポーツ界のみならず日本民族の代弁者の一人だと言える。羽生結弦は試合や練習の合間にCMに出演したり、更には被災地福島のチャリティのために演技したりもする。故郷を深く愛し、人々のために奔走し、発言する若きオピニオンリーダーは、ソチオリンピックで優勝するより前から既に影響力を見せ始めていた。

 

その後、美しい容姿、高い教養、慈善精神、コミュニケーション能力、競技レベル、発言力を備えたその国際的スーパースターは、ソチ冬季オリンピックの舞台で優勝し、自然と世界の観衆に知られ、愛されるようになった。一方、中国には試合で優勝して国のために栄光を勝ち取る選手は数多くいるものの、注目され、社会でポジティブな評価を得るのは往々にしてオリンピック期間中に限られ、大会が終わってもなお世界の「Z世代」への影響力を持ち続ける者は決して多くない。

 

二、適切に世論を誘導することと、事前のコミュニケーションプランの作成

個人の資質とその人物に備わった条件はコミュニケーション効果に一定の影響を及ぼすが、国際的なスーパースターを作り出すためには、開かれた寛容な社会環境も必要だ。適切に社会世論を誘導し、選手の平常時の社会活動により寛容になること。それはスポーツコミュニケーションにおける視点を盛大な大会の壮大な物語からアスリートの生活レベルのミクロな物語へと移すことに繋がり、アスリートの親しみやすいイメージを作るのに大変有効だ。

 

中国にもインターネットを通して人気が出た若い選手がいた。例えば「混沌の力」というSNSスタンプで中国全土で人気を博した水泳の若手選手伝園慧。彼女はバラエティー番組に出演したことで、一部のネットユーザーから「本業を疎かにしている」と非難された。また、第32回東京オリンピックで中国初の金メダルを取った射撃の若手選手楊倩は、突出した競技能力に加えて愛らしい容姿と名門校出身という背景があり、スポーツの国際的スーパースターになり得る潜在力と条件を備えていた。しかし当時西洋のメディアが彼女について報道しても、国内メディアは積極的に深く踏み込んだ報道を企画しようとしなかった。中国に羽生結弦のようなトップアスリートがいないわけではない。ただスポーツ界の国際的スーパースターを作り出そうというメディアの意識、世論、それに対応する文化産業のシステムが欠けているのだ。

 

北京冬季オリンピックで世論を誘導する過程で、グローバルコミュニケーション効果の見込めるアスリート宣伝素材を発掘し事前に準備しておけば、優秀な成績を収めた時に国際メディアがオリンピック金メダリストに焦点を当てた報道をするのに合わせて、関連の記事や記録動画をリリースすることができる。限られた時間の中の最も効果的なタイミングで中国のオリンピックの物語をスタートさせることができるのだ。冬季オリンピックのイメージ構築のプランは、種目ごとにそれぞれある程度差別化を図る必要がある。これまでの冬季オリンピックではフィギュアスケートに対する注目度が比較的高い。そして、視覚芸術と複合メディアコミュニケーションの法則との相性が良く、世界の観客の目を十分に惹きつけ、金メダリストの良好なイメージを構築することができる。

 

例えば、2022年の北京冬季オリンピックでは全部で7種のスポーツの15競技109種目が実施され、会場で分けると屋内種目と屋外種目、勝敗の要素で分けると概ねスピード種目と表現種目に分類される。屋内種目は一般的に選手が防寒のために顔を覆う必要がないので、観客も報道用カメラも、よりじっくりと試合を見て鮮やかな場面を捕らえることができる。スピード種目は表現種目よりも激しく、芸術性よりもスポーツ性が勝る。そしてフィギュアスケートは屋内種目と表現種目の重要な強みを兼ね備えた、冬季オリンピックの中で最も鑑賞性が高い種目の一つであり、選手は全世界のメディアの前で存分に人物のイメージと競技レベルをアピールできる。また、羽生結弦は世界の「Z世代」の観客を牽引する力を持ち、特に若い女性をフィギュアスケートに注目させている。したがって2022年の北京冬季オリンピックでは、やはりフィギュアスケートが最も人気の高い種目の一つになると予測される。

 

ホスト国である我が国には、会場の準備やメディアの手配などの方面でかなりの利便性と優位性があり、どのように中国の「国際的フィギュアスケートスター」を作り出すかをしっかりと計画できる。もちろんその他の冬季オリンピック種目においても露出度や鑑賞性を分析し、試合後の取材の過程で一味違うオリンピックの物語を展開することが可能だ。

 

三、ターゲットとなる視聴者のスポーツ消費の特性を分析し、効果的なコミュニケーション方式を選択する

「Z世代」という言葉はアメリカで生まれた。その消費傾向には主に三つの特徴がある。消費体験を重視すること、趣味のコミュニティに重きを置くこと、容姿を選り好みすること。「Z世代」は未来の消費の主力となるだけでなく、新しい物事を最も受け入れやすい集団だと言える。「Z世代」はスポーツ消費においても美しさ、体験、社会的交流を重視する。具体的に言うと「Z世代」は美的要求が高く、スポーツ選手の外見、振る舞い、性格にも一定のレベルを求める。彼らは新しいメディアやプラットフォームで好きな時に好きな場所で試合を観戦し、同じ好みを持つ視聴者との弾幕やメッセージを通した交流に熱中する。更に「Z世代」は微博などのソーシャルネットワークでオリンピックの競技やオリンピック選手について議論したり拡散したりすることで、より立体的に社交的にオリンピックに参加する。

 

「Z世代」をコミュニケーションの主要なターゲットとする事により、良好な効果が生まれる主な理由は二つある。一つは若い世代は初めて見聞きする物事を受け入れる能力が高く、主体的に表現することへの欲求が上の世代よりも強烈なこと。ある文化圏の中でホットな話題が生まれると、彼らは即座に文化圏を越えて拡散させる。二つ目には海外の若者は海外のメディアが作った紋切り型のイメージにあまり影響されないこと。中国のスポーツと北京オリンピックに対する好感を持ってもらいやすく、国家間の今後の友好的な交流の基礎が作られる可能性もある。

 

北京冬季オリンピック自体は期限付きの国際スポーツイベントであり、世界の注目を惹きつける時間は限られている。ゆえに長期的に見ると、ニュースを継続して生み出し、中国冬季オリンピックの物語をリアルにかつ絶え間なく語り続ける素材が必要となる。筆者は冬季オリンピックの試合、オリンピックの精神、冬季オリンピックの文化的な記憶が、グローバルコミュニケーションにおいて影響力を持つアスリートに集約され、北京オリンピックの重要な遺産の一つになり得ると考えている。羽生結弦のファンがソチオリンピックの様々な場面やエピソードを今でも深く心に刻み込んでいるように、何年か経った後もこのアクティブな選手達が視聴者の北京冬季オリンピックの記憶を呼び覚ますことができるのだ。北京冬季オリンピックにおいて、中国が露出度の高い種目の若手選手を育成し、世論のための十分な空間を用意して適切に誘導することができれば、スポーツ強国中国のイメージを示す新しい名刺になるだけでなく、北京冬季オリンピックの影響力の時間軸を最大限に拡張することができる。そして国際メディアの北京冬季オリンピックへの注目に乗じて、中国スポーツにおける国際的なオピニオンリーダーを育成することで、中国のスポーツマン精神と中国の物語を結合させ、世界の若者たちの心に活気にあふれ奮闘するファッショナブルな中国の新しいイメージを残すことができる。


北京冬季オリンピック選手のイメージを形成する具体的な方法については文化産業や統合型マーケティングの手法が参考になる。コミュニケーション内容を単一のニュースから選手の立体的なブランドストーリーに変換することだ。スター選手の多くは観衆と年齢が近く、心理的な年齢が近い事でポジティブな牽引力を発揮できる。またスポーツスターにはスポーツ活動を普及促進し、スポーツマン精神を啓発する強い力もある。多くの選手には子供の頃に憧れた選手がいて、その影響でアスリートの道を歩むようになった者が多い。羽生結弦は幼い頃からエフゲニー・ヴィクトロヴィチ・プルシェンコ(Evgeni Viktorovich Plushenko)に憧れ、彼に感化されて喘息を乗り越えて選手への道へと進んだ。その意味では北京冬季オリンピックでスター選手を育てることは国民フィットネスプロジェクトの推進にとっても深い意義がある。

 

「Z世代」は定義されることや限定されることを嫌う。コミュニケーション方式や対話の方法の刷新は依然として重要だ。彼らはいつでも見たい時に試合を見るだけではなく、様々なレベル、様々な角度の相互作用を通して参加することで北京冬季オリンピックを楽しむ。従来のテレビ番組以外に、短編動画やライブチャンネルの構築も重要だ。同時に、例えばライブ放送を見て好きな選手に投票するキャンペーンを行うなど、観客と大会が相互に作用する仕組みの構築に力を入れる必要がある。


【結び】

習近平総書記は「5.31」重要講話で、信頼され愛され、尊敬される中国のイメージを作る努力が必要だと強調した。北京冬季オリンピックならではのスポーツスターを育てることは、愛される中国のイメージのアピールに間違いなく有効だ。スポーツには国境がない。北京冬季オリンピックは世界的な一大スポーツイベントである。中国にとって北京で冬季オリンピックを開催することは国力と新型コロナウイルス対策の成果を示す重要な機会となるだけでなく、報道やコミュニケーションの準備を最大限に整え、金メダリストをスターにする計画を立てられるという利点もある。日本のスポーツ界を代表する新世代の人物羽生結弦とその背後にあるメディア戦略の研究を通して、北京冬季オリンピックにおいて中国スポーツ界の国際的スーパースターを作り出すための効果的な方法を模索することで、対内的には中国の「Z世代」がスポーツを深く愛し、身体を鍛えて健康になり、国のために栄光を勝ち取るよう導くことができる。そして対外的には全世界の「Z世代」が中国のスポーツ文化を深く愛し、北京冬季オリンピックの記憶を共有することと、中国の若くてファッショナブルで活力に溢れた新しいイメージを作り出すことに繋がるのだ。