kuppykuppy’s diary

中国語で書かれた羽生結弦選手関連の文章を色々と翻訳しています。速報性皆無のマイペース素人翻訳ですが、よろしければお読み頂ければ嬉しいです。 Twitter:@kuppykuppy2020

トーク番組「2008年から2022年まで」羽生結弦はアジアスポーツ界のナンバーワン男子アスリートと言えるか?」

搜狐スポーツのトーク番組を書き起こした記事を日本語に訳しました。

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羽生選手のオリンピック後の記者会見を受けて、スポーツ報道に携わるベテランのおじ様方が、前半は羽生選手の話、後半はスポーツ界全体について熱く語っておられます。

競技の伝導者であるトップアスリートは、結果の良し悪しに関わらず、怪我のこと含めて自分の物語を一般の人々に伝えるべきだ、それでこそ、その種目に興味を持ってもらえるのだというお話、説得力があります。

捜狐スポーツ 2022年2月15日

 

2月14日、日本のフィギュアスケート手羽生結弦が北京にて記者会見を行い、北京オリンピックに出場した自身の状況について話した。記者会見は多くのメディアの記者に注目され、羽生結弦の絶大な人気を物語っていた。これについて搜狐スポーツの「2008から2022まで」にて、ゲストのChina News Serviceスポーツ部ディレクター盧岩氏とTitan Sports副編集長曹亜旗氏がそれぞれの見解を述べた。

 

司会者:

羽生結弦の記者会見には大勢の人が詰めかけました。曹先生は以前に谷愛凌はアジアスポーツ界のナンバーワン女性アスリートになるかも知れないとおっしゃいました。盧先生にお伺いします。羽生結弦はアジアスポーツ界のナンバーワン男性アスリートと言えるでしょうか?

 

盧岩:

昨日の記者会見で私たちは羽生結弦の絶大な人気を再認識しました。実は記者会見があると聞いた時、私はドキッとしたんです。もしかしてこの記者会見で引退を発表するのか、それとも何か重大な公式発表があるのか?でも昨日の記者会見を見てほっとしました。実は後で説明がありました。これは羽生結弦の場合にはよくある方法で、日本代表チームの説明によると、各方面からの羽生結弦への取材依頼が本当にとてもとても多くて、一つずつセッティングすることはとてもできない、いっそのこと記者会見を開き、その場で自分の思いを伝えてもらおうということになったそうなんです。  

 

数日前の試合終了後と比べると、記者会見での羽生結弦の気持ちはかなり落ち着いているようでした。試合が終わった後の彼は冷静ではありましたが、やはり無念さや悔しさが伺えました。例えば試合後に言った「こんなに頑張ったのに何故報われなかったのか。」という、魂のこもった言葉。昨日の会見で羽生は比較的すっきりして見えました。会見で羽生は試合前に痛み止めの注射を打って出場したことを話しました。これを聞くと、優秀なアスリート、特に世界トップレベルのアスリートの多くは、一見華々しく見えても陰では黙々と怪我と闘っているのだということがわかります。

前回の平昌オリンピックに出場した中国のアスリート張虹は、試合直前に膝から管5本分の液体を抜いたと言います。何て量なんでしょう?彼女は記者に笑顔でこの話をしましたが、私たちは聞いていてちょっと背筋が寒くなりました。怪我は優秀なアスリートにとってまさに一生の敵です。 

 

羽生は4Aを成功させることはできませんでしたが、彼は言いました。自分の1番いいものを皆さんに見せることができたと。そして皆さん、がっかりすることはありません。残念に思うこともありません。彼は引退するとは言いませんでした。これからの道については、恐らくまだスケートを続けて行くと。少なくとも閉会式の日、2月20日にまだエキシビションがありますから、注目したいですね。こちらも首都体育館で開催されます。

 

搜狐スポーツ:

曹先生は羽生結弦の世界スポーツ界、特にアジアスポーツ界における現在のポジションについてどう思われますか?

 

曹亜旗:

先程、アジアナンバーワンの男性アスリートとおっしゃいました。冬季種目で言えば、彼がナンバーワンで議論の余地はほぼないでしょう。もしも夏のオリンピック種目や高度にプロフェッショナルな種目も入れたスポーツ界全体においてと言うならば、順位は下がるかも知れませんね。種目の性質や影響力が違うことを考える必要があります。例えばサッカー、バスケットボール、更には野球。世界における影響力やファンの総数が多くの冬季種目とはかなり違うのは間違いないですから。

 

でも、それは彼が世界トップレベルのアスリートで、私たちに数えきれないほどの素晴らしい演技を見せてくれているということには関係ありません。そして彼は4回転アクセルという、難易度があんなに高いのに、実際に試合で完璧に実施したとしても他の高難度の4回転ジャンプと1点しか違わない技を諦めずに追求し続けてきました。ある意味彼は執念に取り憑かれているとも言えるでしょう。こういった執念はすなわち彼のスポーツに対する悟り、スポーツ精神の追及であり、彼ならではのやり方というのかもしくは目標というのでしょうか。それこそが羽生結弦が私たちの心にくれる力です。彼の偉大な点は正にそこなんです。

 

この後のエキシビションや、また世界選手権で彼が尚その執念を貫いて私たちに見せてくれるのかどうかには関わらず、彼は本当に一生をかけて一つの目標を追い続けてきました。これには本当に感動しました。徐夢桃が自分のオリンピックの夢に懸けた思いを通して見せた精神と、本当にとてもとてもよく似ています。

 

搜狐スポーツ:

盧先生に一つお聞きしたいのですが、今回羽生結弦は男子シングルの4位でした。これまでのオリンピックの成績と比べると決して良かったとは言えないのですが、それでも試合後に日本代表チームは世界に向けての記者会見をセッティングしました。一方、負けた時にはそのアスリートを守ったり或いは隠したりして、人々の目に触れないようにしたり、取材を断ったりする方法もあります。盧先生たちが別の代表選手チームを取材された時にもそんなことがあったかもしれません。

私が思うに、一つはフィギュアスケート羽生結弦に関心があったり大好きだったりする人たちへの説明であり、もう一つは日本代表チームがいわゆる失敗したアスリートに世界に向き合わせて、その人の魅力と自信を発信させる勇気を持っているということを示していました。これついては他の国や地域の代表チームが学ぶべきことがあるんではないでしょうか?

 

盧岩:

かなり以前には、アスリートは手の届かない人、もしくは簡単には交流できない人なのだという間違った認識がありました。長年の経験では、代表チームやアスリートが試合で良い結果を残せば接しやすいですし、勝って気分が良い時は取材すると色々と話してもらえます。もしも失敗があった場合には、うつむいて手を振って話したくなさそうに取材エリアを通り過ぎてしまうことがよくあります。アスリートの気持ちはわかります。何と言っても試合で負ければ気分は良くないし、その上、何か間違った発言や不適切な表現があれば、自分で火に油を注いでしまう心配もありますから。

 

ちょっとした例を挙げますと、東京オリンピック後、重要な試合の後にアスリートにリモート取材をすることになった時、OK、時間があればやりますよと言ってくれるアスリートもいましたし、重く感じて心配するアスリートもいました。リアルタイムで接続して話しているうちに何か適切でないことを言ってしまったり、はっきりと話すことができなかったりすれば、自分の所属するチームや協会によくない影響を及ぼしてしまうかも知れない。これはよくわかります。アスリートは人であって神様ではありません。そして手の届かない象牙の塔のてっぺんに住む貴族でもなく、多くは普通の人間なんです

 

オリンピックなどの大きな試合を取材すると強く感じるのですが、外国人アスリートは取材の際、話しやすくて気さくな印象です。時には特に親しいわけではないアスリートでも。そもそも多くの外国人アスリートとは初対面で面識がありません。

 

他には、香港や台湾のアスリートを取材した時のこともとても強く印象に残っています。2016年のリオオリンピックで、香港選手団の旗手を務めたのは、2016年のオリンピックのフェンシングの種目で出場した選手でした。そもそも香港のアスリートがフェンシングで良い成績を収めるのは簡単ではありません。ですので、香港のメディアは取材のためにミックスゾーンに長い列を作りました。私は彼らの話す広東語を全然聞き取れませんので、一番後ろでじっと待っていました。香港の記者の取材が終わった時には既に試合終了からかなり長い時間が経っていました。少なくともミックスゾーンに30分以上いてくれていたと思います。私たちが声をかけた時、そのアスリートがとてもとても疲れていることがわかりました。最後の取材を受ける時、ミックスゾーンの手すりに寄りかかり、両脚の位置を何度も換えながら立っていて、とても疲れたと言っていましたから。それでもふさわしい風采と態度を保って、私たちが聞きたい質問にきっちりと答え終わると、とても優しく「長い間待ってくださって本当にお疲れ様でした。」と言ってくれたんです。とても暖かい気持ちになりました。

 

スポーツ文化を作ることは簡単ではありませんし、一つのスローガンやアピールのフレーズでスポーツ文化を根底から新しくすることなんてできませんが、アピールすることに長けていたり、アピールのために努力する選手はどんどん増えてきていて、中国のアスリートの全体の印象は変わってきています。オンラインにせよオフラインにせよ、フレンドリーであったり、メディアと良好な関係であったりすること。これは今後我が国の全てのアスリートにとって必須の課題になるのではないでしょうか。どのようにメディアと付き合うか、SNSで一般のユーザーといかに良好な交流するか、それはどちらもアスリートにとって必須の課題でしょう。

 

搜狐スポーツ:

以前盧先生が紹介してくださった話ですが、平昌オリンピックでの取材の際、尿検査のために時間通りにミックスゾーンに来られなかった関係者がいて、後でチーム関係者がわざわざ記者の連絡先を調べて状況を説明してくれたそうですね。これはとても良好なコミュニケーションの形ですね。

 

記者会見で我々は、羽生結弦が試合前に非常に大きな怪我をして右足首に痛み止めを打っていたことを知りました。怪我をすれば速やかに治療をして、試合後に一般の人たちにありのままの状況を伝える。これは過去の有名なアスリートたちの状況と非常によく似ています。何ら恥ずかしいことではないですし、隠さないといけないことでもありません。もしもボクシングなどの試合なら、右肩に怪我をしたとすると、相手が右肩ばかりを狙ってくる恐れがあるから秘密にする、それならよくわかります。でもスピード種目や採点種目なら相手と激しくぶつかることはありません。全てを隠さなければならないということはないと思うんです。曹先生はどう思われますか?

 

曹亜旗:

メディアによってアスリートへの世論が過度に造られ、成績について尾鰭をつけて取り沙汰されることを避けるため、チームやアスリートは場合によっては言葉を濁し、具体的なことを公開したがらないのではないかと思います。もしも怪我のことを強調しすぎると、金メダルを取ったのならいいですが、そうでない場合には言い訳か何かではないかと思われる可能性がありますから。

 

人によって物事を見る視点は違うので、別の考え方もあるでしょう。絶対的な基準で語るのは難しいんですが、大切なのは試合前にどうであったかではなく、試合が終わってからのことです。私たちがいつも強く言っているのは、表彰台を降りれば全てをゼロからスタートさせるべきだということ。その時にはどうしてこのような結果になったのかを振り返り、そのストーリーをみなさんに共有する必要があると思っています。怪我のことも含めて。試合前に隠したかったり公開したくなかったりする、それは理解できます。でも試合が終わればその必要はありません。

 

怪我を成績が思わしくなかったことの言い訳にしているとメディアに解釈されることが心配で、そう考えるとやはり自信がないし、こんなことで誤解されてもと思ってしまうのでしょうね。でも、最近は中国のアスリート全体の状況に変化が見られます。彼らはコミュニケーションに積極的で、自分をアピールすることに積極的です。特に最近のSNSの発達で、多くの人が自分の色々なこと、例えば性格や能力、好きなことや趣味など色々なことを発信できるようになりました。

今や皆さんがそれらの情報を得る手段は沢山あり、試合の中でそのような誤解が生まれることはだんだん減ってきています。

 

今、もしも試合が終わった時、自分が目指していた成績よりも低かったとしても、だから取材をあまり受けないとか、そんな必要は全くありません。大切なのは試合が終わった後は未来を見ること。もっと大切なのは、なぜ実際の成績と自分の期待していたものとに乖離があったのかを適切に総括することです。例えば表彰台を目指していたのにベスト8にも入れなかったとしたら、そのギャップはかなり大きい。やはり人々の前に出てきて説明することが必要です。何と言ってもオリンピックの舞台に立つような人はその種目の実践者であり、その種目の伝承者です。自分の経験を語り伝え、自分の物語によって沢山の人にその種目のことを、目に見えない努力のことを理解してもらうべきです。そうすることで、その種目がより受け入れられ、より多くの人に注目され、発展していくことができるのです。

その種目が相対的に大衆的なものでメジャーなものであれ、マイナーなものであれ、選手が自分の経験を伝えることで初めて関心を持って、やろうと思い、その世界に入って来る人がいるのです。もしもこの時は成績がよかったからと大挙して人が押し寄せ、成績が良くなければさっと引いて行くようならば、その種目の長期的な発展にとって何ら良いことはありません。

 

盧岩:

中国のスポーツ代表チームのやり方には、一つとてもよい点があります。チームによっては、試合を終えた後にその種目の組織のトップやヘッドコーチが出てきて、種目全体についての説明や振り返りの総括をするんです。あまり良くない結果に終わった試合であっても、ヘッドコーチが出てきて説明をします。夏のオリンピックで水泳やバドミントンの取材に行った時や、冬のオリンピック種目でもそうでした。

 

一般的に冬のオリンピックの取材に行く記者は少なめで、記者はいろいろな種目の報道を担当しなければなりません。2018年の平昌冬季オリンピックで、私は女子カーリングの最終戦に行きました。その際、中国の女子カーリングチームのヘッドコーチが出てきて、長時間に渡って取材に応じ、このチームがどうやって選考から漏れる寸前から平昌オリンピック出場まで漕ぎ着けたのかの経緯や、どんなことでも困ったのかや、中国カーリング種目の展望などを語ってくれました。

実はその時取材するまで私は興味本位の通りすがりの人と同じで、中国の女子カーリングチームは強いなあと思っていただけでした。コーチの説明を聞いて、この種目について正確に、客観的に理解することができたんです。こういった総括は本当にとても良い経験になると思います。自分に対する説明であり、チームに対する説明でもあり、そして一方ではメディアに対して、一般の人に対しての説明にもなります。更に重要なのはメディア側から何か質問や知りたいことがあれば、そのシステムを通して、その仕組みを通してチームと良好なコミュニケーションを取れるということです。

 

搜狐スポーツ:

盧先生がおっしゃる状況は卓球の世界でも同じです。世界卓球選手権の最終日には毎回、劉国梁会長が前線で取材した記者に総括をし、みんなの質問に答え、関連する疑問に答える。いつもそうです。

 

今日どうしてこの話をするのかと言うと、全ての部分でそんなに行き届いた対応がされているわけではなく、試合が終わったアスリートがどうするべきわからず、その結果いわゆるネットの暴力を引き起こしてしまうこともあるんです。これはアスリートにとって大きなダメージになってしまいます。アスリートは競技場で既に一生懸命頑張っています。何か落ち度があったのならわかりますが、時には本人には全く関係のない要因によって訳の分からないネットの暴力を受けるのです。そのようなことに、あらかじめよく考えて対処することができれば、アスリートへのダメージを減らすことができますし、より良い環境で生活や競技をしてもらえることができるでしょう。それこそが私たちが目指す結果です。(了)